自転車の、ベル


わたしには自転車がない
いやあるんだけど
今 彼は
あ、彼というのは自転車のこと
彼はね 今は
自転車ドロボー氏のその友達の友達の
元にいるんだ
と思うんだ

彼は今ごろ
さみしがってはいないかな
まるで薄情な わたしのことなど
思い出してもくれなきゃあ
いいんだけど


君の気持ちを訊きもしないで
勝手に おすそわけ
してしまったんだね わたしは
自転車ドロボーのその友達の友達の
もとへ
君は行きたいなんて
思っていたのかいなかったのか
わたしは尋ねもしなかったね

君が遠くで泣いていなきゃあ
いいんだけど
無職で昼から飲んだくれてる
わたしのことなど 思いもしないで

チリンチリンと
ベルがきこえた
気がしたけれど
ああ、そうだった
君のベルは 壊れていたんだった



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(C) 2001 脇素子 (WAKI Motoko)