さよならのうた


窓辺にいる きみ
僕の声が
聞こえているの?

僕は
くりかえしくりかえし
音をたてる
水さ
ざざん ざざん
うたっているんだ
寄せては返し
寄せては返し
ざざん ざざん
自分でも
とまらないんだ
僕は うたうたい
さみしくても
うたう

窓辺で 涙ぐんでるね
きみ
かなしいの?

朝は朝焼け
夕は夕焼け
月の明かりに
星のまたたき
夜の闇は 静寂の色
ほっといても
空の色に染まる
うたいつづけるしかない
僕は
うたうたい さ

ざざん ざざん
ただ風が ここちよいよ
それだけが
僕の楽しみ

ざざぁん ざざん
くりかえしくりかえし
月に 僕は呼ばれる
満ちていく
引いていく
いついつからかの
習慣で
月は ほかならぬこの僕を呼ぶ
僕は
ささやいたり
叫んだり
抑揚のきいた声で
うたをうたう
時折眼を閉じて
うたう

ああ……
いついつからか
いついつまでか
うたをうたっているのは
僕が うたうたい
だから
どこから来て
どこへゆくのか
僕自身
知らない

これは うた だ
これも うた さ
僕自身のふるさとは
どこにある?
僕のふるさとに
このうたは届いているか

窓辺のきみ
僕の声が 聞こえるの?
泣いているの?
どうしたの?


その窓辺にも
空は繋がっているね?
風が吹いているね?

僕の声が
聞こえるかい?
窓辺のきみ
遠くを見て ため息ばかり
ついているきみ
僕の声がもし聞こえるのなら
いいかい?
コーヒーでもいれなさい
お気に入りの歌
くちずさんで
夜になったら窓をしめ
風邪をひかないようにするんだよ
カーテン閉めて
暗い闇に負けないようにね
朝は朝ご飯食べて
散歩にでも出掛けなさい
また夜が来たら
ぐっすりと
眠るんだよ

何故きみが
泣いているのか
僕は知らない
もう僕は
誰の心も 覗きこまない
すべては 僕の なかにある
僕は僕の うたを聴く
僕は海と呼ばれているが
昔は名前があったんだ
だけども今は もうない
僕の名前も 僕の心も
いつしか するりと 手を抜けて
消えていってしまったんだ

窓辺で 涙ぐんで 僕の声を 聞いてるきみ
僕と手を繋ぎたい?
それでもいいよ
でも今は 昼寝でもしたら?
……………………
うん ごめんよ ごめん
泣きたいなら 泣きやむまで
泣くといいよ じゃ元気でね

さよなら

ざざん ざざん
うたをうたう
千年の孤独をいつか埋め
僕もぐっすり眠りたい
いつか僕のふるさとに
声が届く 浅い夢を
僕は見ている
何もかもを受けいれて
僕は待っている
千年の孤独をひきうけて
すべてを抱く 青の玉
僕はうたうたい
どんなにさみしくても
どんなにかなしくても
ただうたを
うたっている



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(C) 2001 脇素子 (WAKI Motoko)