無題
若草色の傘さして
ざんざ降りの雨のなか
かかとならして石段のぼって
お気に入りのブレスレット
くるりと回してブザーならして
戸の向こうに
あらわれたのがあなただった
コーヒーカップ
両手で包んで
小さな波を
ずっと見ていた
話をせずとも
うれしくって
顔をあげればあなたがいて
わたし あなたに出逢うため
あなたに笑顔を見せるため
電車にのってここに来ました
とても良い 家ですね
畳が心地よいですね
蚊取り線香
けむりが流れて
いきますね
庭には池が
ありますね
池には鯉が
いるんですね
いま跳ねたのは
白い鯉
今日はわたし
あなたに会いに来たんです
コーヒーカップ
目を伏せたまま口にはこんで
お気に入りのブレスレット
左の手首でかちゃりとなって
ざんざ降りの雨の音
言葉がなかなか出なくても
うれしくって
しかたなかった
顔をあげればあなたがいて
あなたがそっと頬笑んでいて
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(C) 2001 脇素子 (WAKI Motoko)