「たずね猫」
張り紙をつくってみたんだ
何の意味も
ありはしないと
本当は知っているけれど
「この猫、知りませんか」と
君を想うわたしのことを
わたしは紙に
えがいてみる
君が生きた世界の隅に
君が生きた時代のどこかに
わたしは刻み込みたくなったんだ
君の姿
君の名前
君の「生」を
あともう少し
残してみたくなったんだ
何の訳も伝えず
消えた君
短いような長いような
わたしのそばにいてくれた
時間が
わたしは心地よかったよ
わたしのことを
困らせたり泣かせたり
笑わせたり和ませたり
聖猫ではなかったにせよ
君はそんなに
悪い奴ではなかった
「この猫、知りませんか?」
と書いた下には
君の写真と
わたしの住所
君には帰って来る場所がある
だから君
安心していていいから
(新しい世界には
何が待っているだろうね
君の前にも
わたしの前にも)
「この猫、知りませんか?」と書かれた紙を
わたしはじっと眺めてみる
ああ そうだ わたしは知ってる
十数年 こんなわたしとともに居て
ひどくあつい夏を駆け抜け
ある朝ふっといなくなった
瞳だけはきれいだった
茶の縞の猫
わたしは君を知っている
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(C) 2002 脇素子 (WAKI Motoko)