たったいっぺんの詩に
心から笑ったことなど
思いだせやしないわたしが
何もかもを忘れて
ふっと
ほほえんでいたのでした
ある日出逢った
いっぺんの
詩に
ふっと息を
はいたときにはもう
張り裂けんばかりに
なっていた胸のことなど
すっかり思い出せなくなって
わたしは
ずっとずっと忘れていた
涙の落とし方さえも
その時
しっかりと
思い出して
いたのでした
ほんの
十行にも満たない
言葉の並びに
遠くの誰かの
心のもように
わたしは
何もかもを突き抜けるよな
凪の海となって
ただふっと
ほほえんで
いたのでした
ある日出逢った
やさしくさびしい
たったいっぺんの
詩に
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(C) 2002 脇素子 (WAKI Motoko)