ひしゃく


いつかある時 夜空を見た
ひとつ星をみつけた
もひとつ みつけた
みっつ よっつ いつつ……
大きいひかりや かすかなひかり
近かったり 離れていたり

ああ きれいだ 好きだなぁと
どんなに心を尽くして叫んでも
どんなにやさしく囁いても
すべての音は限りなく
どこまででも すいこまれ
夜空には 無数の静寂の 星
両の手のひら 差し上げようと
どんなに空にのばそうと
うけとってもらえるほどに
わたしは近づいていけない

夜が明けて
星を想う
眼を閉じれば またたいている
ただじっと 黙したひかりの
音を聴こうと わたしは心をすべて開く
ずっとずっと眼を閉じて
いたいけれど いつか眼を開け
わたしは歩く
見上げれば 青い空
それとも
今にも雨が降り出しそうな
雲におおわれた 曇り空
星を想う
本当は眼を閉じずとも
星は空の深い場所に いつも黙して
ひかっているのに
わたしは夜を 待ってしまう
好きなんだよぉ 本当なんだよぉ
想っても想っても
星は遠く 声は闇にすいこまれ
わたしは宙に浮いたまま

夜になって
見上げれば 無数の星
ほほえんで ささやく
好きなんだよぉ 本当だよぉ
星を見て いつかうれしく
いつか ふいに なみだを落とした
気がつけば
わたしは ひしゃくを持っていた
夜の河を流れゆく 星
わたしのものにしたいから
ひしゃくであなたを捕まえる
柄を長く長く持ち
手をどこまででものばして
それでも星には届かない
遠くて
わたしは星に 近づいていけない
ひしゃくを夜空にかざしてみる
星が好きで 星のそばに行きたくて
それが無理だと知っていても
ひしゃくを持った両の手を
わたしは天に投げ出している
好きだから とささやいて
好きなのに とため息ついて
限りなく遠い闇のしたで
無数の星のひかりを浴びて
わたしは 夜毎
天を仰いで
たちすくむだけ



戻る

(C) 2001 脇素子 (WAKI Motoko)